5月3日の午前、神戸市のJR三ノ宮駅前にあるロータリー付近で、乗用車が暴走、車は大通りを横切って、向かい側のビルの前にある銅像の台座に衝突して停止しました。歩道に乗り上げて歩行者を次々とはねていき、車に乗っていた2人を含む7人が重軽傷を負いました。ブレーキ痕がないこと、運転手は事故のことはよく覚えていないと供述しており、飲酒運転でもないため、運転手の体調に何かしらの異変があったと推測されます。
また、運転手には過去に複数回自動車事故を起こして頭の手術をしており、その後遺症により声がどもる、手が震える、頭が揺れるという後遺症があった模様です。杖をつき、足のリハビリも行っていたようです。
上記のような運転手の病気による自動車事故の場合、
①責任をどの程度運転手に求められるのか。
また、②被害者は自動車保険金を受け取ることができるのか。
が焦点となってきます。(現在の段階では、運転手が今後刑事罰に問われるかどうかという記述は省きます。)
誰に責任があるの?
運転手は過去の事故によって後遺症をわずらっており、頭が揺れる、手が震える等の症状がありながらも車を運転していたこと、運転手を知る周りの証言では、もう車には乗っていないと思われていたほどです。
近年、繁華街で車が暴走する事故が相次いで発生しています。運転手がてんかんや心疾患、脳こうそく等の病気を原因とするケースのほか、危険なドラッグを服用など原因は様々です。今回の事故では、運転手は過失責任が大きい飲酒運転等ではなく、突然の体調不良であった可能性が高いです。しかし、前もって後遺症、病気だと自身でわかっていながら、運転を行い、事故を起こし、被害者を出した場合の運転手の責任は必ずしも少なくないでしょう。
ここで少し自動車保険について話します。
自動車保険には大きく分けて2種類のものがあります。一つ目は強制保険(「自賠責保険」という。)があります。これは交通事故の激増に伴い、被害者救済の必要性から、被害者側からの過失立証を容易にし、かつ最小限の賠償を被害者に補償するためのものです。自賠責保険は自動車の運転手であれば、必ず加入していなければならない保険で、加入していなければ刑事罰の対象にもなります。最低限の補償しかされないのが原則です。具体的には人身事故による損害の適用範囲は120万円で、物損の補償は対象ではありません。二つ目は、任意保険です。自賠責保険で損害が十分に補償されてない場合に自賠責保険を補うもので、任意保険にはさまざまなものがあります。
この二つの保険は、両方の適用はできません。(任意保険に加入していれば、任意保険会社が自賠責保険も立て替えてくれます)
自賠責保険の適用はあるの?
今回の事故では、保険適用の範囲内(死亡事故3000万円、重度の後遺障害が残る4000万円、傷害120万円まで)であれば、被害者に保険金は支払われます。自賠責保険は被害者の救済を目的とする保険であるため、被害者に重大な過失がない限り保険金が減額されることもありません(重大な過失とは、例えば信号無視、泥酔して道路に寝ていた等のこと。)運転手側が自賠責保険に加入していない場合でも、自賠責保険の範囲内で国が代わり被害者に損害の補償してくれます。
自賠責保険の範囲を超える傷害を負われた被害者に保険金は支払われる?
運転手が加入している任意保険会社次第でどの程度、被害者に支払われるか分かれそうです。被保険者(この場合、運転手)の過失割合によって、保険会社の支払い義務が免責または制限される可能性があります。免責事由で代表的なものは、被保険者の故意による事故での損害です。(過失割合、免責の判断は、加入している保険会社の調査・審査によります)。
今回のケースでは、運転手には過去複数回交通事故にあった経緯があり、かつ後遺症も自覚していた状況にも拘わらず運転を行っていますから運転手側に過失はあります。(睡眠時無呼吸症候群を患っていた運転手が居眠り運転をして事故を起こした過去の判例では、病気が原因で運転手が運転時に居眠りをしたことへの因果関係は認めつつも、予防措置を取らなかった本人に重大な過失を認めています)但し、今回の事故状況からして被害者側に過失はありませんし、運転手側に過失があったとしても、自賠責保険の範囲を超える傷害を負われた被害者の方に対して、運転手側の任意保険は支払われます(保険とは、本来被害者救済のためにある)。被害者側に過失がない場合、すべて加害者側が支払うのは当然です。①運転手が任意保険に加入していない、②運転手が加入している任意保険の適用外であった場合は除きます。
加害者側との損害賠償交渉を行い、保険会社から支払われる金額に納得がいかない(保険会社から提示される金額は自賠責保険金に近いものであることが多いです)場合、被害者自身が加入している任意保険によっては、
①弁護士費用を賄ってくれるもの(「弁護士費用特約」という。)、300万円を限度として補償してくれます。
②被害者の過失が大きい場合でも決められた額の補償が受けられ、加害者が支払い拒否した場合でも支払いを受けられるもの(「人身傷害補償特約」という。)
③加害者に任意保険がない場合でも加害者に代わり払ってくれるもの(「無保険傷害補償特約」という。)
もあります。