- 破産について説明いたします
1.破産とは何か
破産とは,裁判所を介して,保有している資産を各債権者に清算し,代わりにすべての債務の支払義務を免除(免責)してもらう手続です。
つまり,例えば事故や病気などで働けない時期があったなどの理由で,借金が重なり,結局返済を続けていくことができなくなった(支払不能)場合に,ひとまず現在保有している財産を各債権者に分配して,残る借金は支払わなくてよいものとする,ということです。
こうした制度が存在する理由は,主に①債権者間の公平・平等を図ることと,②債務者の経済的な再生を図ることにあります。結局のところ,債務は債務者の収入や財産からしか返済することができず,全ての債務を返済する見込みがないのであれば,むしろ財産を平等に分配した方が,債権者同士で公平と言えます。また,債務者が個人であれば,一定の条件のもとで,債務から解放して立ち直りを促す救済手段を残しておくべきです。債務者が返済もままならないまま負債を増加させても,結局それを回収することはできないのですから,債権者にとってもますます不利益になるだけです。
もっとも,破産手続を行うことと,それによって免責を受ける(債務の支払義務を免れる)こととは,別のことです。後に解説するとおり,破産をしても免責を受けられないケースがあります。
破産するとどうなるのか
破産をすれば,債務者は現在の債務を支払う必要がなくなります。当然,それが最も大きいメリットでしょう。
しかし当然,破産によるデメリットも存在します。様々な法律上・事実上の不利益が含まれますが,以下3点が主なものです。
1.保有している資産が清算されること
上記に述べた通り,自己破産により債務の支払義務がなくなる代わりに,自分の資産は清算されます。自分名義の自宅や自動車も失う可能性があり,この点は注意する必要があります。
もっとも,生活に必要な自動車などを保有しているからといって,直ちに破産手続が不適当というわけではありません。古い車など,時価評価額が低いものは,清算する価値のない財産として,破産した後も手元に残すことができます。一定の生活必需品も同様です。ただし,車のローンなどで,債権者に所有権が留保されている財産は,引き揚げられてしまう可能性もあります。
退職金や保険の解約返戻金など,手元にはないものであっても,資産として評価され,清算される可能性があります。
2.就職できる職業に制限がかかること
破産手続開始決定から免責許可決定が出るまでの期間,一定の職業・資格に就くことが制限されます。弁護士や司法書士などのいわゆる「士業」,警備員や公庫の役員など社会から一定の信頼が求められるものなど,比較的広い分野の職業において規制が設けられています。自身の職業が破産によって制限されるものか否か,実際に調査する必要があります。
3.氏名が官報に掲載されること
官報とは,政府の発行する新聞のようなものです。特別に必要な人以外は通常閲覧しないものですが,一応,これに掲載されることによって,破産者の氏名が公に示されることになります。
破産の手続の流れ
法人や事業主ではない個人の破産手続は,概ね以下の手続で行われます。
(1) 弁護士事務所での相談から破産の申し立てまで
・債務整理に関する相談
債務額や借り入れの経緯等に関する事情聴取を通じて,自己破産せざるを得ないか,任意整理など他の取り得る手段があるかなどの債務整理方針を決定します。
・申立代理人弁護士による各債権者への受任通知の送付
相談を終え,弁護士と委任契約を結ぶと,(個人破産の場合,)弁護士は代理人として各債権者に受任通知を送付します。
受任通知とは,弁護士が債務者の代理人として受任し,介入したことを示す通知です。受任通知が貸金業者に送付されると,当該業者は原則として債務者に直接取り立てることができなくなります。
ただし,受任通知の発送後にみだりに弁済や回収,借入れ等を行うことは,手続の進行に大いに悪影響を与えかねないので,厳に慎まなければなりません。
・申立代理人による財産調査・保全
申立代理人となった弁護士は,金融機関や貸金業者等から債務者の債権調査票や取引履歴を取り寄せ,全体の債務の調査を行います。また,預金や保険の解約返戻金,不動産,自動車などの保有資産を調査し,破産手続のために保全します。
また,債務者に借金が重なった経緯などについて聴取します。
・破産手続開始の申立て
申立書類を準備し,管轄の裁判所へ破産申し立てを行います。
(2) 破産の申し立てから終結まで
- 同時廃止と管財事件の違い
破産手続開始決定の申立てをすると,裁判所は,債務者の資産や借入れの状況等に応じて,「管財事件」か「同時廃止」かに振り分けます。
「管財事件」とは,破産手続の原則的な形態です。裁判所が管財人となる弁護士を選任し,管財人に債務者の資産を調査・保全し,それを換価・処分したうえで各債権者に分配します。この管財手続は,申立費用のほか,破産管財人の業務のための相当額の予納金の納付が必要となります。
「同時廃止」とは,債務者の残る資産では,上記のような手続費用すら支払えないという場合に,破産手続開始の決定と同時に,破産手続を廃止する手続です。この場合,審尋(裁判所から事情聴取を受ける手続)を経たあと,免責決定を受けることになります。
同時廃止事件は,管財事件に比べて,予納金(地域差等ありますが,個人の破産であれば約20万円程度となることが多い)を裁判所に納める必要がなく,免責までの期間も短い手続です。
- 同時廃止手続の場合
同時廃止手続の場合,債権者の意見申述や破産者の審尋を経た後,裁判所が免責許可・不許可決定を出します。
- 管財手続の場合
管財手続の場合,開始決定の後,管財人と打ち合わせを行い,破産者の状況を管財人に伝えます。そして,破産手続開始申立てから概ね2か月~3か月程度先に,債権者集会が開催されます。債権者集会では,破産者と申立代理人が出頭し,破産財団(破産手続開始時に破産者が保有していた,清算の対象となる資産)の状況等に関する報告が行われます。
債権者集会の後,免責審尋が行われ,破産者に手続開始後の事情の変更について確認されます。
免責について管財人から調査結果が報告された後,裁判所から免責に関する決定が出ます。
破産による免責について
免責とは,破産による配当で弁済しきれなかった債務について,破産手続終了後,責任を免除する(支払わなくてよいものとする)制度です。
破産手続を行えば当然に免責を受けることができるというものではなく,一定の「免責不許可事由」(破産法252条1項各号)があった場合,免責されず,債務の支払義務が残ってしまう可能性があります。
免責不許可事由に該当するものは,以下のとおりです。
①債権者を害する目的で,財団の価値を減少させる行為(252条1項1号)
②破産手続の開始を遅らせる目的で,債務の負担や不利益な処分を行う行為(2号)
③偏頗弁済(3号)
…債権者間の公平を害するような目的で,特定の債権者にだけ弁済等を行うこと
④浪費等による財産減少・債務負担行為(4号)
…競馬やパチンコなどのギャンブルや,投機的取引を含みます。
⑤詐術を用いた信用取引(5号)
…支払不能であることを知りながら,相手を騙して借入れをしたり,信用取引をしたりすることです。
⑥帳簿等の書類の隠滅や偽造変造,虚偽の債権者名簿の提出(6号,7号)
⑦説明義務違反(8号,11号)
⑧破産管財人の業務の妨害(9号)
⑨免責許可申立て前7年以内に免責を得たことがある場合など(10号)
なお,免責不許可事由があれば全く免責を受ける余地がないというわけではありません。裁判所は,上記のような事情があった場合でも,破産に至った経緯など一切の事情を考慮して,免責許可決定を出すことがあります(裁量免責,252条2項)。
免責不許可事由がある場合に裁量免責を目指すには,今後破産者が経済的に更生可能であること,破産手続に協力的であることを裁判所に示す必要があるでしょう。
また,税金や養育費,一定の不法行為に基づく損害賠償請求権など,一部の債権については,そもそも免責の対象となりえません(非免責債権,253条1項)。