【追突事故の被害者から,事故のために東京行きの航空予約便に乗れなかったので商談に間に合わず1億円の事業の契約書の調印が出来ず他社に取られてしまった。2000万円の利益が飛んだと言って請求してきました。対応をアドバイスください。】
交通事故の被害者が仕事をしている社会人である場合、冒頭の相談者と同じ立場になる可能性は誰にでもあります。冒頭の相談内容から、相談者は追突事故を起こして被害者に損害を与えていると考えられます。そのため、相談者は被害者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負わなければなりません。
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民法709条
(不法行為による損害賠償)
故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
冒頭の相談事例で問題となるのは、賠償の対象となる損害の範囲です。相談者が被害者に対して賠償する損害の範囲は決まっています。そこで、賠償の対象となる損害の範囲を明確にした上で、冒頭の相談事例に対する対応方法を解説していきましょう。
交通事故の損害賠償の範囲には人的損害と物的損害がある
交通事故の賠償の対象となる損害の範囲には、人的損害と物的損害の二つがあります。人的損害とは、交通事故で被害者が負傷したり、精神的な苦痛を受けたりしたことによる損害をいいます。一方、物的損害とは、交通事故で自動車が損傷するなど物に生じた損害のことです。
さらに、人的損害には、積極的損害、消極的損害、精神的損害の三つに分類されます。積極的損害とは、交通事故によって生じた出費のことです。交通事故による負傷の治療費、入院費などがこれに当たります。
消極的損害とは、本来得られたはずの利益や収入が、交通事故で得られなくなったことによる損害のことです。たとえば、会社勤めをしている社会人が交通事故に遭って、一定期間仕事を休まなければならなくなったとしましょう。その際、仕事を休んだことで収入も減ってしまいます。そして、この収入減少分が消極的損害に当たります。
精神的損害とは、交通事故の被害に遭って精神的な苦痛を受けたことに対する損害のことです。交通事故で被害者が死亡したり、負傷したりしたときに加害者に請求できる慰謝料は、精神的な損害を受けたことに対するものです。
冒頭の相談事例からは、被害者に対する直接的な損害の内容が明らかではありません。しかし、上記であげた損害の種類に該当する範囲内で、相談者は被害者に対して損害賠償責任を負うことになります。
間接損害に対しては賠償責任を負わないのが原則
冒頭の相談事例では、被害者は相談者に「交通事故で東京行きの航空予約便が取れなくて商談に間に合わず、その結果2000万円の利益が飛んだので賠償してほしい。」旨の賠償請求をしてきています。仕事で2000万円を得られる機会の損失は、交通事故による間接的な損害に当たります。そこで、このような損害も相談者は賠償しなければならないのでしょうか。
交通事故の損害賠償の範囲は、被害者自身の直接的な損害に限るのが基本です。仕事で2000万円を得られる機会の損失は、事業者が被った損害になります。したがって、損害賠償の対象にならないのが原則です。裁判所の判例にも、このような見解を示したものがあります。(最判昭和43年11月15日)
ただ、例外として被害者と事業者が同一視できるケースでは、上記のような間接損害が損害賠償の対象になるときもあります。たとえば、代表者一人で事業を行なっている会社において、その代表者が交通事故に遭ったことにより、仕事で得られる機会を逃したときです。このような場合、被害に遭った代表者は事業者の機関として代替性がなく、経済的にも事業者と一体をなす関係だと判断されるからです。
冒頭の相談事例からは、被害者と仕事で2000万円の利益を得る機会を逃した事業者の関係が明らかではありません。しかし、上記例外に該当しない限り、相談者は被害者に対して得られる可能性のあった利益分2000万円を賠償する必要はありません。
任意保険加入者であるか否かで対応方法が変わる
冒頭の相談事例のように、相談者が被害者から高額な慰謝料請求を受けた場合、どのように対応すればいいのか悩むところです。交通事故の被害者から損賠賠償の請求をされた場合、任意保険に加入しているか否かでその対応方法が異なります。
任意保険加入者の場合は保険会社に連絡して対応するのが通常
冒頭の相談事例の相談者が任意保険に加入している場合、その保険会社に連絡して対応することになります。任意保険の補償範囲には、通常、賠償目的の保険金支払いの他、相手側との示談交渉サービスが含まれています。そのため、保険会社に連絡すれば、担当者が相談者の代わりに示談交渉手続きを行なってくれるのです。
任意保険未加入者である場合は弁護士に相談して対応するのがおすすめ
冒頭の相談事例の相談者が任意保険に加入していない場合、弁護士に相談して対応するのがおすすめです。
任意保険未加入者が交通事故を起こした場合、自分自身で示談交渉をしなければならないのが原則です。しかし、示談交渉の手続きでは、慰謝料の適正相場,休業損害の算定方法,過失割合の算出方法、示談書の交わし方などの専門知識を要します。一般の人の大半は、上記のような専門知識を持っていないため、自分自身で適正な内容の示談を成立させるのは難しいのが現状です。
一方、弁護士は示談交渉の際に必要とされる専門知識に詳しいです。そのため、弁護士に相談して対応すれば、適正な金額の損害賠償額を被害者側に支払うことで解決できます。