2023.5.21 相続
遺言能力の判断基準
(1)遺言の内容
遺言者が遺言の内容を理解・判断できたかどうかが重要な要素となります。
例えば,「全財産を相続させる」のように遺言の内容が単純であれば病
状などで判断能力が低下していても遺言能力は肯定されやすく,複雑な
内容になれば遺言能力が必要とされるので,遺言能力は否定されやすく
なります。
(2)年齢
高齢者の遺言をめぐって遺言の効力を争われる例が多いので,遺言者
の遺言作成時の年齢が遺言能力の判断要素となる場合が多くあります。
後期高齢者でも特に80代以上となると意思能力を慎重に調べる必要
があります。
(3)病状
問題となる病名の多くは,脳梗塞,脳出血,重度の高次脳機能障害,認
知症,統合失調症など脳機能に関する傷病がほとんどです。
これらは判断能力が低下する病気であるため,どの程度症状が進んで
いたか,または改善されていたかが詳細に判断する必要があります。
(4)主治医の診断
主治医の診断や所見は重要視されます。
遺言者が遺言書作成時に判断能力を持っていたとの診断は有力な根拠
となります。
主治医が精神科,心療内科,脳神経内科,脳神経外科等の専門医であれ
ば有力な診断となります。
しかし,医師の診断や所見は絶対的なものではなく,他の状況も踏まえ
て総合的に判断する必要があります。
(5)遺言前後の日常の生活状況
遺言前後の遺言者の生活状況は,遺言者の遺言作成の判断能力を判定
するための重要な要素です。
遺言者の言動,食事を食べる時の状況,新聞などを読めるかなどを詳細
に確認して判断能力があるかどうかを調べる必要があります。
(6)遺言の作成動機
遺言の作成経緯は,遺言が遺言者の自発的意思に基づいて作成された
ものであるかどうかで遺言能力の判断基準の一つとなります。
遺言者の自発的意思によって作成されたものであれば肯定されやすく,
親族(遺言で利益を受ける相続人)等に誘導される,強制される,などし
て作成されたものであれば否定されやすいと判断されます。
(7)遺言書の形式
遺言書の遺言者の書いた文字の状態,文章による表現等,遺言書自体の
形式が整っていない場合は,遺言者の遺言能力が否定される要素となり
ます。
(8)法定相続分
被相続人の遺言かないときは,民法の定める相続分が適用されます。
法定相続に関しては別項目で詳細に説明します。
相続人の範囲について
1.相続人とは
相続人は,被相続人が死亡時に生存していることが必要です。
相続は,被相続人の死亡と同時に開始し,被相続人に属した一切の財産上の
権利義務が直ちに相続人に移転します(民法896条)。
これを「同時存在の原則」といいます。
2.相続人の種類
①胎児
胎児は,相続の場合には「生まれたものとみなし」特別に相続権を認めてい
ます(民法886条1項)。
これを,「胎児の出生擬制」といいます。
ただし,死産であれば擬制の必要がなくなるので,1項は適用されません
(民法886条2項)。
②配偶相続人
配偶者は常に相続人となります(民法809条)。血族相続人がいるときは,
常に共同相続人になります。
血族がいないときは,配偶者が単独相続人となります。
③血族相続人
血族相続人の相続順位は,①子→②直系尊属→③兄弟姉妹,となります(民
法887条1項・889条1項)。
先順位の相続人が1人もいないときは,次順位の者が相続人となります。
④代襲相続人
相続人となる者が相続開始以前に死亡したり,相続欠格,相続廃除によって
相続権を失った場合,その相続人の直系卑属が,その相続人に代わって,その
者の受けるべき相続分を相続することをいいます(民法887条2項,889
条2項)。