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名ばかり管理職の残業

課長やリーダーなどの役職を与えられた人が「管理職は残業代がつかない」と会社から言われてしまい、いくら残業しても残業代の支給を受けられないことでトラブルに発展するケースも珍しくありません。

今回は、従業員が適切な割増賃金ならびに残業代の支払いを受けるために知っておきたい、みなし残業の有効性について詳しくご紹介します。

名ばかり管理職の残業

労働基準法412号で「事業の種類にかかわらず監督もしくは管理の地位にある者」を法律上、「管理監督者」といい、労働時間等に関する規定の適用が除外されています。平たく言えば、管理監督者には残業代をはじめとした割増賃金が支給されないということです。

そのため、係長や課長をはじめとした管理職にある人には残業代が出ないと思われている方が多いかもしれませんが、それはあくまで俗説にすぎません。なぜなら労働基準法でいう「管理監督者」と一般でいう「管理職」が必ずしも一致しないからです。では、労働基準法の「管理監督者」とは、どのような人のことを言うのでしょうか。

 

管理職は労基法上の「管理監督者」とは限らない

労働基準法第41条では次のように定められています。

<第41条>

この章、第六章及び第六章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。

一(略)

二 事業の種類にかかわらず監督もしくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

この412号の「監督もしくは管理の地位にある者」は、一見すると管理職であるかのように見えます。

会社組織では一般的に、課長以上が管理職として認識されています。そして、課長に昇進すると、労基法412号を根拠に「管理職になったから残業代は支払わない」とする会社が多く見受けられます。しかし、過去の裁判例を鑑みるにこれは管理監督者としては範囲が広すぎると言わざるを得ません。

管理監督者に当てはまるかどうかは実態で判断するべき

厚生労働省は「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」という行政通達の中で「管理監督者」について次のように記述しています。

「管理監督者は労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいい、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けません。管理監督者に当てはまるかどうかは、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断します」

つまり、「課長」や「リーダー」などの役職名にとらわれず、実態に即して管理監督者に該当するかどうかを見極める必要があります。他にも、管理監督者に該当しうる条件として次の3つがあります。

①労働時間、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ないような職務内容と重要な職務と責任を有していること
管理監督者は、時を選ばず経営上の判断や対応が要請されるような立場にあるため、会社が定める勤務時間にとらわれず、自身の裁量で勤務時間を決められます。役職者でも会社が決めた勤務時間に合わせて仕事をしている人は、勤務時間について裁量権があるとはいえず、管理監督者にはなりません。

②経営者と一体的な立場で仕事をしていること
会社の経営方針を決定し、労務管理上の指揮権限を有するなどの重要な職責がある人が管理監督者にあたります。「課長」や「リーダー」といった肩書がある人はたいてい、仕事を進めるうえで上司の決裁を仰いだり、上司の命令を部下に伝達したりするものです。その場合、管理監督者にはあたりません。

③賃金等について、その地位や権限にふさわしい待遇がなされていること
基本給や役職手当もその地位や権限にふさわしい待遇で支払われていなければなりません。割増賃金が支給されていないうえに重要な職務を遂行しているのですから、少なくとも一般の従業員よりは優遇されるべき相応の報酬を受け取っていることが前提となります。

ご覧の通り、労基法上で定める「管理監督者」は、範囲がかなり狭まれていることがおわかりいただけるでしょう。一般的な会社で課長や部長職の多くは会社が決めた勤務時間に出勤・退勤しますし、会社の経営方針を決定したり、勤務時間について裁量を有したりしている従業員は社内でもごくわずかな人に限定されるはずです。

人件費を抑えるために、課長などの職位を与え「管理職になったから残業代の支給はない」とする会社は多くあります。その場合、相応の待遇を用意するべきであり、「労務管理について経営者と一体的な立場にある者」と同様のレベルの職責を与えるべきでしょう。それができなければ会社側は割増賃金支払い義務を免れないと言えます。

なお、管理監督者に該当したとしても割増賃金の支給が一切受けられないわけではなく、22時から翌日5時までの深夜業については割増賃金の支給が受けられます。有給休暇も一般の従業員と同様に付与される点にも注意しましょう。

「名ばかり管理職」が争われた判例

支店や小売店などの店長や役職者が、割増賃金の支給を受けられなかったために、会社を相手取り未払い残業代の請求をした事案は数多く見られます。

①日本マクドナルド事件(東京地裁平成20年1月28日)

ファストフード店の店長が管理職であることを理由に管理監督者とみなされ、残業代の支給を受けられなかった事案です。同社の店長は、自分が労基法41条の管理監督者として扱われているのは違法であるという訴えを起こし、裁判では、アルバイトスタッフの教育やシフト管理を任せられる立場にある店長が、経営者と一体的な立場にあるかどうかが争われました。

店長と言う立場でアルバイトの人事管理に関する権限はあっても、社内人事を管理するほどの権限を有しているわけではありません。他にも、メニュー開発や商品価格の決定など、会社の経営方針決定に参画している事実もなかったことから、裁判所は「名ばかり管理職」だったとみなし、同社に対し未払い賃金の支払いを命じました。

②レイズ事件(東京地判平成22年10月27日)

不動産会社において営業本部長の立場にあった元従業員が未払い賃金の支払いを求めて提訴した事案です。事業経営に対する関与、労働管理に対する関与、出退勤における勤務実態特別手当その他待遇を総合考慮して管理監督者にはあたらないとしました。

③HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド事件(東京地判平成23年12月27日)

外資系金融機関の日本支店に出向し、プロジェクトの管理業務を担当していた従業員が管理監督者にあたるかどうかが争われました。高い報酬と労働時間管理を受けていない立場にあったとしても、管理監督者にふさわしい職務内容や権限を有していなかったと判断され、管理監督者にはあたらないとしました。

他にも、管理監督者をめぐる裁判例の多くが、管理監督者にあたらないとする判決は数多くあります。会社側が部長や課長などの地位で管理監督者に該当すると主張するならば、かなりの時間と説得力が求められると言えます。

3.まとめ

一般的な会社における「リーダー」や「課長」の地位では、法律上の管理監督者にはならず、割増賃金の支払いを当然に受けられることがおわかりいただけたことでしょう。「管理職なのだから残業代は支給しない」とする会社の方針に納得がいかない方、あるいはご自身の役職が管理監督者にあたるかどうか判断が難しい場合は、労働問題に詳しい弁護士に相談してみましょう。