会社の債務履行が難しくなった場合、破産法に沿って資産の換価処分などの手続きを始めることになります。
経済的にも経営意欲の面でも行き詰まった状況から始まるため、経営陣としては「費用はどうなるのか」「手続きの流れはどうなるのか」と不安になるのではないでしょうか。
本コラムでは、会社破産の費用・手続きの流れと共に、同様の手続きである「特別清算」との違いも紹介します。
会社の破産とは
まず法人における「破産」の意味を定義すると、すべての財産を換価処分して債権者に分配し、なお履行できなかった債務については免除の許可を得た上で、最終的に会社を消滅させることを指します。
一方、報道などで用いられることの多い用語である「倒産」は、必ずしも破産を指すとは限りません。業績悪化により債務履行が難しくなり、結果として会社の再生または清算の手続きが始まったことを、広く一般に「倒産」と呼びます。
会社破産にかかる費用
会社を破産させる時は、破産処理のための必要経費(予納金)を裁判所に納めなくてはなりません。予納金の目安額は、手続きが「特定管財」(通常管財)と「少額管財」のどちらの扱いになるかで異なります。
【会社破産時の予納金】※目安
特定管財:50万円~
少額管財:20万円~
特定管財と少額管財の金額差は、破産処理の煩雑さが反映されたものです。
まず、裁判所の運用ルール上定められた処理を全てこなすのが「特定管財」であり、本来は全ての破産ケースが特定管財として扱われるはずでした。裁判所業務の効率化・申立人の経済的状況などを考慮し、あとから一部の裁判所の運用として設けられたのが「少額管財」です。
以上のような経緯から、比較的複雑性のないケースは「少額管財」に割り振られて予納金が抑えられ、処理を慎重に進めるべきケースは「特定管財」へと進んで相当の予納金を支払うのが現状です。
なお、上記2つをまとめて「管財事件」と呼び、管財事件の他には「同時廃止事件」もありますが、会社の破産で同時廃止に進むことはまずありません。
会社の破産の流れ
会社を破産させる手続きでは、破産申立までの対応が最も重要な部分です。
事業場を混乱させたり、また支払不能になった後の状況を乱して手続きに支障をきたしたりすることのないよう、十分注意を払わなくてはなりません。
ここでは、会社が破産手続きを実施する流れについて、計8ステップに分けながら紹介します。
1:破産手続きの準備
まずは取締役会決議で破産手続きに関する事項(事業停止日や事業所閉鎖に関すること)を定めます。また、決議に依らずとも、取締役が個別に会社の破産を申し立てることも可能です(=準自己破産/破産法第19条1項)。
事業停止日の当日は、従業員に解雇を知らせると共に、手続き中必要な資料を確保しながら事業所の閉鎖・整理を実施します。
2:受任通知の送付(弁護士に依頼した場合)
弁護士に依頼した場合は、申立てまでの間に「受任通知」が債権者に送付されるのが原則です。
しかし実際の運用では、あえて受任通知を送付しないケースが多々あります。
第1の理由は、士業介入によって督促を禁止するような法令がないため、個人が破産する場合のような「債権者からの直接連絡がなくなる」といった利点はない点です。第2の理由として、むやみに事前通知してしまうと、相手方に債権回収に向けたアクションを起こされてしまい、その後会社が行うべき手続きに支障をきたしてしまう恐れがある点が挙げられます。
3:財産と資料の保全
事業停止以降は、破産手続きで問題が生じないよう資産状況と各種資料の保全に努めます。
下記は保全しなければならないものの一例です。
【一例】破産申立までに保全が必要となる書類
- 預金通帳+印鑑
- 小切手帳・小切手帳
- 不動産等の権利証
- 契約書・請求書・売掛帳
- その他重要書類や証券類など
上記以外にも、帳簿や直近の試算表などの収支状況が分かる書類を収集・整理し、破産申立書の作成に備える必要があります。
4:破産申立
破産手続を開始する際は、申立書に必要事項を記入し、さらに下記書類を添付して管轄裁判所に提出します。
【破産手続開始申立書に添付する書類】
- 資産目録
- 債権者・債務者の各一覧表
- 代表者の陳述書
- 取締役会議事録(もしくは取締役の同意書)
- 委任状(弁護士に依頼する場合のみ)
破産申立ての際は、支払不能に至った経緯を説明しなければなりません。また、財産隠しやその他債権者の不利益に繋がるような行為があったと認識されてしまうと、詐欺破産罪(民法第265条)に問われる恐れがあります。
以上の点を踏まえ、極力弁護士と打ち合わせながら申立書類の作成を進めます。
6:破産手続開始決定・破産管財人の選任
申立書類の提出から2週間程度で「破産手続開始決定」が下り、破産管財人と呼ばれる人物が裁判所に選任されます。
破産管財人の職務は、会社の財産の換価処分や清算、債権者の分配、さらに支払不能に至ってから現在までの経緯の調査にあります。管財人からの質問や協力依頼には、誠実に対応しなければなりません。
7:債権者集会
破産手続開始決定から2か月~3か月後に1回目の「債権者集会」があります。
集会の場では、管財人から破産処理に関して報告が行われ、債権者それぞれに意見を述べる機会が与えられます。後者の意見陳述の機会に関しては「債権回収の結果への影響はほぼゼロに近い」と広く知られており、実のところ、全員不参加の状態で開かれる場合がほとんどです。
なお、1回目の債権者集会までに必要な破産処理が終わらない場合など、3か月ほど後に2回目の集会が開かれることもあります。
8:債権者への分配
会社の財産をすべて換価し、債権者平等の原則に従って各自の債務額に応じた分配が行われます。なお、保護の必要性が高い「優先的破産債権」に該当するもの(賃金債権や公租公課の請求権など)は、その名の通り他の債権よりも優先して分配されます。
分配が完了し、処分できる財産がなくなった段階で「終結」もしくは「廃止」の決定が下り、手続きが終了します。
破産と特別清算の違い
根拠法に基づき会社を解散させながら債務整理する方法には、破産の他に「特別清算」があります。破産も特別清算も、債務処理を主導する人物が裁判所に選任される点や、会社資産の換価処分と債権者分配によって整理する点は共通です。
ただし、この後解説するように「開始できる条件」と「経営者の自主性」の2点は大きく違うと言わざるを得ません。そこで、それぞれ向いているケースとして下記のようなものが挙げられます。
【特別清算が向いているケース】
- グループ企業の社会的信用を維持したい。
- 債権者と話し合いながら速やかに手続きを終えたい。
- 会社分割や新会社設立などで事業再生を目指したい。
【破産が向いているケース】
- 督促が厳しくなり、事業継続の意欲もなくしている。
- 差押えなどの法的な回収手段を行使される恐れがある(行使されている)。
特別清算の特徴
特別清算を開始できるのは下記の要件があり、破産に比べて厳しいと言わざるを得ません。
また、清算を進めていく上で返済条件を定めるための協定を結ぶ際など、債権者の同意が必要になる場面があります(会社法第563条・第564条・第567条など)。
【参考】特別清算の開始条件(会社法第510条・第511条)
- 株式会社である
- 既に清算手続きを始めている
- 清算の遂行に著しい支障を来すべき事情があるか、債務超過の疑いがあること
一方で、特別清算には「経営者が主体的に進められる」との利点があります。
資産の換価処分を主導する「清算人」には会社が選んだ人物や取締役が就任でき(会社法第478条)、特別清算に移行した後も引き続き「特別清算人」として活動を行える場合がほとんどです。ひいては「破産」につきまとうネガティブなイメージを回避しつつ、親子関係にある会社や代表者の信用低下を最小限に抑えられるメリットが生じます。
破産の特徴
破産手続の開始要件は「支払不能または債務超過」であること以外にありません(破産法第15条)。特別清算とは異なり、有限会社や合同会社でも利用できます(破産法第19条)。
また、手続きを進める中で債権者の同意が必須条件ではありません。債権者の意見は尊重されますが、基本的には裁判所や破産管財人の判断で進められます。
一方で、破産につきまとう悪いイメージは回避できません。
また、特別清算人と同様の職務を担う「破産管財人」の選任に関して、会社は関与できないのも難点です。したがって、事業再生を目指す上で向いているとは言えません。
まとめ
会社の破産手続では、申立準備の段階が最も重要です。債権回収の動きや従業員からの問い合わせで現場が混乱しないよう、戦略的に事を運ばなければなりません。また、資産の保全や申立資料の確保は極めて煩雑です。
また、そもそも破産と特別清算のどちらが望ましいかは、事業再生に対する考えや債務の状況により異なります。
支出面を含め、今後の計画に支障が出ないよう、なるべく早期から弁護士のサポートを得ましょう。