結婚に合意して夫のマンションに引っ越し同居していました。5日後の二人が休みの日に入籍手続きを取ることにしていました。ところが突然夫が交通事故で死亡しました。加害者に賠償請求しましたが保険会社から妻ではないと言われました。納得できません。
入籍直前での不慮の事故とのこと、心中お察しいたします。確かに内縁関係にある人は法律上、配偶者にはなりませんが、交渉次第で賠償請求できる可能性があります。その理由について詳しく説明します。
法律上、慰謝料を受け取れるのは親、配偶者、子のみ
事故で突然家族を失った遺族は、精神的にも経済的にも大きな苦痛を強いられます。そのため、民法711条では「被害者の父母、配偶者及び子」は自らの精神体苦痛を理由に慰謝料請求することを認めていて、これを「遺族固有の慰謝料」といいます。
では被害者の父母、配偶者及び子以外の人は慰謝料を受け取れないのかというと、そうではありません。判例では「同条に該当しない者であっても、被害者との間に同条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係があり、被害者死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は同条の類推適用により、加害者に対し直接に固有の慰藉料を請求しうるものと解するのが相当である」としています。(最判昭和49年12月17日)
配偶者・親族以外の人でも支払いを受けられるケース
この判例では被害者の親、配偶者、子以外の人が損害賠償する要件として
①被害者との間に同条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係がある
②被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた
の2点を挙げています。そして、①については被害者自ら立証することが求められるとされています。
つまり、「被害者の配偶者のような関係だったか」どうかが条件を満たすポイントとなります。「法律上の夫婦と同じような暮らしぶりだった」「実の親子のように生活していた」など、被害者の生活状況と、遺族のかかわり方について証明できれば遺族固有の慰謝料の請求が認められます。
内縁配偶者でも慰謝料請求はできる
判例を見てみると、内縁の配偶者にも賠償請求権があることにほとんど異論はありません。「配偶者に準じるもの」として遺族固有の慰謝料請求権を認めています。(大阪地裁平成21年12月11日)
重要なのは一時的な同居ではなく、あくまで近親者と同等とみなされるような生活実態があったかどうかです。ご相談いただいた方の場合はすでに同棲中であり、結婚目前であったことから、内縁関係にあったとされ、慰謝料の請求が認められる可能性は極めて高いと言えます。
なお、事実上の夫婦関係にあったことを証明するために、住民票、内縁配偶者を被保険者としていた健康保険証などを証拠として用意しておきましょう。
本人の慰謝料は相続せず、内縁の配偶者の分だけ慰謝料請求できる
気になる慰謝料について、自賠責保険基準では
本人に対して350万円(死亡しているので本人が受け取る慰謝料を遺族が相続する)、
請求者が1人の場合:550万円
請求者が2人の場合:650万円
請求者が3人の場合:750万円
死亡した被害者に被扶養者がいる場合、今後の生計に役立てるために200万円を加算します。
あくまで目安で、遺族固有の慰謝料は過失割合を含めた事故の状況や、近親者の現状などに応じて事案ごとにそれぞれ見合った額を決めることがほとんどです。
ただ、内縁の配偶者は上記の金額よりも比較的高額な遺族固有の慰謝料が認められています。というのも、交通事故の被害者は、死亡している場合でも加害者に対して慰謝料請求権があります。親、配偶者、子の場合は死亡した本人の慰謝料請求権も相続するのに対し、内縁の配偶者には相続権がありません。あくまで内縁の配偶者だけの慰謝料に限定されます。また、扶養喪失にかかる損害賠償も受けていないことも考慮しているため、高額な慰謝料が認められていると考えられます。
なお、慰謝料額を決めるにあたっては、
①扶養喪失にかかる損害賠償の有無
②相続人と本人との家族的生活関係の程度
③生命保険がおりるかどうか、
なども考慮されます。
保険会社と交渉する前に弁護士にご相談を
このように、判例では内縁配偶者に対し慰謝料の請求を認めていますが、任意保険会社は法律上の夫婦ではないことを理由に支払いを拒み続けるでしょう。支払いを受けられたとしても、不当に低い金額の慰謝料を提示されることは目に見えています。
保険会社との示談交渉に入る前に、交通事故に詳しい弁護士にご相談の上、交渉を進めていくと良いでしょう。適正な慰謝料を算出し、保険会社との交渉もスムーズに進められます。
そして、婚約者を不慮の事故で亡くした喪失感は大きいものです。そのような時こそ、法的な問題は弁護士に任せた方が安心感もあります。ぜひ弁護士にご相談ください。