2020年10月13日、そして15日に、正規社員と非正規社員の待遇の格差について争われていた以下の3つの事件の最高裁判決が言い渡されました。
・大阪医科薬科大事件……アルバイト社員へのボーナス不支給は不合理ではない
・メトロコマース事件……契約社員への対象金不支給は不合理ではない
・日本郵便事件……契約社員についての諸手当・休暇の格差は不合理である
いずれも、非正規社員が正規社員との待遇の格差が不合理であるとして、企業側と争っていた事件です。この判決だけみると、判断に明暗がわかれたようにも感じますが、中身を確認するといずれの判決でも、「不合理な待遇格差は認められない」とのスタンスをとっています。今回はこの3つの事件を基に、同一労働同一賃金について解説します。
各事件の詳細と判決
まずは、各事件の詳細と判決を確認しておきましょう。
大阪医科薬科大事件
大阪医科薬科大事件とは、大阪医科薬科大学に勤めるアルバイト社員が、正社員と同様の業務に就いているにも関わらず、以下の点で不合理な格差があり「労働契約法20条」に違反をするのではないかとして、大阪医科大学に対して損害賠償を求めた事件です。請求金額は1272万1811円でした。
・給与
・賞与の不支給
・業務外の疾病による欠勤中の賃金
・年末年始、創立記念日の賃金支給
・年休の日数
・夏期特別有給休暇の有無
この事件は最高裁判所まで争われ2020年10月13日に言い渡された最高裁の判決では、「職務の内容などには一定の相違があった」として、賞与の不支給は不合理な格差ではないと判断されました。
このうち、原告であるアルバイト職員の主張が認められたのは、「夏期特別有給休暇の日数分の賃金に相当する損害金5万110円」と、「弁護士費用相当額5000円」のみです。
これ以外の待遇の格差については、不合理ではないとしています。
これらの証拠を集めていることがわかると、束縛が厳しくなるなど加害行為が激化するおそれもありますので慎重な行動が求められます。証拠の収集方法がわからない、怖くて行動ができないという方は、ひとりで悩まずにご相談ください。証拠の確保の段階からサポートさせていただきます。
メトロコマース事件
メトロコマース事件とは、大阪医科薬科大事件と同様に労働契約法20条の「不合理な労働条件の禁止」について争われた事件です。
メトロコマース事件の原告(裁判を起こした人)は、東京メトロの売店の契約社員である販売員でした。メトロの売店販売員は全員同じ業務を遂行しているのに、正社員と契約社員では賃金格差があるとして、格差分の賃金や慰謝料を請求したのです。
この事件で、原告側は以下の点について不合理な格差があるのではとしていました。
・基本給の格差
・賞与の格差
・住宅手当なし
・永年勤続褒章なし
・退職金なし
このうち、住宅手当、永年勤続褒章、およびそれらに相当する弁護士費用については、不合理な格差であるとして、損害金や弁護士費用の支払いが命じられました。これらは東京高等裁判所の判断を最高裁が踏襲しています。しかしながら、退職金については、契約社員と正社員の職務に一定の相違があることは否定できず、待遇に格差が生じることは不合理とはいえないと判断されました。
日本郵便事件
日本郵便事件とは日本郵便に勤める契約社員が、正社員と待遇が異なる下記の5点について、不合理な格差があり労働契約法違反であるとして、損害賠償を求めた事件です。
・年末年始勤務手当の有無
・扶養手当の有無
・祝日給の有無
・業務外の疾病による欠勤中の賃金の有無
・夏期、冬期休暇の有無
最高裁判所では、上記5点について、全て正社員と契約社員の格差は不合理であるとして日本郵便側に損害賠償金の支払いを命じました。
日本郵便事件では、契約社員と正社員の職務内容に相違があると認めた上で、待遇の格差は不合理であると判断されています。
同一賃金同一待遇を定めた「労働契約法第20条」とは
上記の3つの事件はいずれも、非正規社員が正規社員との待遇の差が労働契約法20条に違反するとして損害賠償請求がなされたものでした。実は今回の判決で争点となった労働契約法20条ですが、すでにその条文は削除されており、パートタイム有期雇用労働法第8条にその役割が託されています。
労働契約法旧20条は、以下の通りです。
『有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない』
この条文の要旨は、「正規職員と非正規職員の労働条件に不合理な違いはあってはならない」というものです。今回の最高裁判所に判決は、この労働契約法旧20条に基づいてなされています。
最高裁の判断がわかれた理由
3件の最高裁判決は、一見すると、大阪医科薬科大学、メトロコマースの非正規従業員の請求は却下され、日本郵便の非正規従業員の請求は認められたように思えます。
しかしながら、内容を確認してみると大阪医科薬科大学、メトロコマースともに、賞与や退職金等の報酬に関わらない待遇面での請求は一部ではありますが認められています。詳しくその判断を検討してみましょう。
賞与や退職金は、正規社員の長期雇用を確保するためのもの
賞与や退職金の格差は不合理ではないとした理由は、正規社員と非正規社員の職務内容や責任、異動の有無等に差異があると判断されたからです。また、賞与や退職金は正規社員の長期雇用を確保するためのものであるも判断されています。
扶養手当や年末年始勤務手当等の格差は職務内容の差異に依存しない
日本郵便の年末年始勤務手当は、多くの人が休む年末年始に働いていることから支給される趣旨の手当です。正規社員であっても非正規社員であっても、「年末年始に働いている」という事実は変わりませんので、非正規社員に年末年始勤務手当を支給しないことは不合理と判断されました。
旧労働契約法20条は2020年4月1日にパートタイム有期雇用労働法第8条に統合された
2020年10月現在、旧労働契約法20条は、パートタイム有期雇用労働法第8条に統合されています。パートタイム・有期雇用労働法は2020年4月1日に改正されました。
パートタイム有期雇用労働法第8条が、労働契約法旧20条の同一労働同一待遇の原則を引き継いでいる条文です。
原則として、両者の趣旨は同じであり同じように解釈されると考えられます。したがって、今回の判決は、今後の同一労働同一待遇に関する争いにも影響を与えます。
同一労働同一待遇の原則は、単純に「同じ仕事をしているから同じ報酬を支払うべき、待遇にすべき」というものではありません。
業務内容の差異だけでなく責任の範囲や、配置変更の範囲等の有無など総合的な要素を検討して、「同一労働」、「同一待遇」かどうかを判断しなければならないのです。
厚生労働省のホームページには、パートタイム有期雇用労働法等対応状況チェックツールが用意されており、企業の取り組み状況を経営者や担当者が確認できるようになっています。
パートタイム労働者、契約社員等を雇用している経営者の方は確認をしておきましょう。
https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/shindan2/
同一労働同一待遇について、不明な点、自社の対応状況でお困りの方は、弁護士に相談をするとよいでしょう。
自分の待遇、賃金に疑問がある非正規労働者の方はご相談を
パートやアルバイト、契約社員といった働き方の方で、「通勤手当が支払われない」、「住宅手当がない」、など職務内容とは関係ない部分での正社員との格差でお悩みの方は弁護士に相談をしてみましょう。会社に待遇の改善や慰謝料を請求できる可能性もあります。当事務所では、労働条件や待遇に関するご相談を付け付けておりますのでお気軽にお問い合わせください。