2020.10.1 未分類
みなし残業の有効性について
労働基準法(以下「労基法」)37条では、法定労働時間を超えて働いた労働者に対して割増賃金を支払うように定めています。一般常識で鑑みても、従業員が働いた分だけ会社が給与を支払うのは当然のことです。しかし、労働基準法の規定を悪用し、労働者に過酷な条件で労働を強いる企業が後を絶ちません。
たとえば「みなし残業制」は、使い方によっては会社にも従業員にもメリットが大きい制度ではありますが、会社が悪用すると従業員は極めて不利な立場に置かれてしまいます。
今回は、従業員が適切な割増賃金ならびに残業代の支払いを受けるために知っておきたい、みなし残業の有効性について詳しくご紹介します。
みなし残業とは
みなし残業は、一定時間分の時間外労働、休日労働及び深夜労働について、会社が従業員に対して定額で支払う割増賃金です。求人情報を見ていると給与欄に「基本給25万円(みなし残業代月20時間分5万円含む)」などといった記載を見たことがあるかもしれません。
このように、はじめから残業があることを想定して基本給に残業代を含んだ金額を支給する会社は多く見られます。残業があったとみなしていることから「みなし残業代」あるいは「固定残業代」とも呼ばれています。
みなし残業の利用要件
みなし残業は次の要件を満たす必要があります。
①固定給(基本給)とは別に割増賃金と残業時間を設定し、超過分の残業代は別途支給すること
みなし残業はどれくらいの金額で、どれくらいの時間分が含まれているのかを定める必要があります。これは基本給とは別に設定しなければならない点に注意が必要です。「基本給○○万円(固定残業代含む)」などのように、みなし残業代の金額や時間が明確でない給与体系は違法となります。また、みなし残業時間を超えた残業時間について、残業代を別途支給すること併せて明記する必要があります。
②固定給とみなし残業代、残業時間を従業員に明示すること
固定給ならびにみなし残業時間と残業代を決めたら、従業員に明示しなければなりません。就業規則や雇用契約書をはじめ、求人情報などにも記載し、従業員がいつでも閲覧できるようにします。
みなし残業制度を利用するメリット
使い方次第でみなし残業は会社側にも従業員にもメリット・デメリットがあります。
まず、会社側のメリットとして従業員の残業時間や残業代の計算が楽になります。恒常的に残業が発生している会社にとって、従業員の残業代の計算は煩雑になるためみなし残業を導入すれば計算が容易になり、業務負担の軽減にもなります。
また、みなし残業代を含んだ金額を求人情報の給与欄に記載することで、応募者が集まりやすいことも特徴です。例えば、求人情報を閲覧しているときに、以下の掲げる2つの給与体系を見てどちらが魅力に感じるでしょうか。
基本給28万円(固定残業代月30時間分7万円を含む。超過分の割増賃金支給)
基本給23万円(残業代別途支給)
基本給で5万円の差があるだけで、前者の給与の方が魅力に感じるかもしれません。これが従業員側にとってもメリットになりえます。30時間分のみなし残業代が支払われているので、残業時間が30時間未満だった月があっても、減額されることなく7万円分支払われます。
それに後者の給与体系では残業をしなければ残業代の支給が受けられないので、できるだけ多く収入がほしい人は敬遠するかもしれません。やはり残業代別途支給の求人よりも毎月もらえる金額が高そうに見えます。
しかし、前者の求人は固定残業代月7万円を含んだ金額が基本給となります。すなわち、残業代を含めなければ基本給は28万円-7万円=21万円で、後者の方が基本給は高くなります。会社側にとっては額面が高額で人が集まりやすくなりますが、従業員にとってはメリットにならないケースもあるので注意が必要でしょう。
みなし残業が悪用されるケース
会社側はみなし残業制を導入したとしても、みなし残業時間分を超えた部分については、追加で割増賃金を支払わなければなりません。たとえば、上記の「固定残業代月30時間分7万円を含む」とした会社で1か月の残業時間が35時間だった従業員は、別途5時間分の残業代の支給を受けられるというわけです。
ところが、この制度を悪用して「うちはみなし残業代を払っているからこれ以上残業代は払えない」と主張し、超過した残業時間について従業員に残業代を支払わない会社があるのです。
みなし残業制は会社が指定する時間だけ残業したとみなして残業代を支払う制度であり、一定時間を超えた部分については別途残業代を支払わなければなりません。勤務先でこうしたみなし残業代を悪用し残業代の支払いを拒否されている場合は、労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。